キュウリ水耕栽培管理システムとして製作中の自動給気給水機QLi-kun2には、肥料濃度をモニターするTDS計を付けています。QLi-kun2には肥料の自動調整機能を追加しようと考えていますが、全然間に合っていなくて、とりあえずTDS計だけが付いている状態です。TDS計を正しく使って、最適な肥料自動調整機能を追加する為、TDS計とその値について検討してみます。
TDS計は電気伝導度を測定してそれをTDS値に変換しています。元の電気伝導度に温度依存性がある為、実測して標準状態補正を入れようと考えていました。その為の準備として肥料濃度毎のTDS値を測定します。
■TDS値について
TDSはTotal Dissolved Solidの略で、総溶解固形物と訳されています。水質関係で使われる指標のようですね。水に溶けている固形分の量を濃度(ppm)で表したものです。強熱残分とどう違うのか最初分かりませんでしたが、調べてみると、重曹やケイ酸等分解して水が抜けていくものがあるので、違う指標にしているみたいですね。溶けているすべての固形物濃度とかざっくりした指標だなあ、と思いますが、水質の比較をする上では便利ですね。パッと検索した感じだと、福島大学柴崎先生の講義資料が簡潔にまとめられていて分かりやすいですね。
福島大学 共生システム理工学類柴崎研究室
https://www.sss.fukushima-u.ac.jp/~nshiba/
(資料は直リンになってしまうので、研究室のアドレスです。インフォメーションの授業資料の中の”2024.10.23 11月7日の授業資料(カラー版)”等。)
TDSの測定法にいくつかあるようですが、水耕栽培でよく用いられているのは電気伝導度から換算する方法です。電極が飛び出ているプローブを水溶液中に突っ込むデバイスは、全部同じです。あまりストレートに書いてある情報が見つからないので、英語ですが、下のThremo Fisherさんの解説を参照します。
Conductivity Measurement and Testing / Thermo Fisher Scientific
https://www.thermofisher.com/us/en/home/life-science/lab-equipment/ph-electrochemistry/conductivity-measurement-testing.html
これによると、電気伝導度(EC)とTDSは係数をkとした直線関係にあります。係数kは水溶液によって変わるようで0.4~1.0の範囲となるようですが、一般的に販売されているTDS計は0.5としているようですね。いずれにしても、電気的に測定するTDS値は本質的にEC値(電気伝導度)と同じです。
■電気伝導度(EC)と電解質濃度の関係
十分に低濃度な領域における電解質濃度と電気伝導度の関係は、コールラウシュの法則として知られています(平方根則)。
$$ \Lambda = \Lambda_{0} \ – \ \sqrt{c} $$
ここでΛはモル伝導率、電気伝導度を電解質のモル数で割ったもので、1モル当たりの電気伝導度です。Λ0は無限希釈時のモル電導率。
この式で言っているのは、モル伝導率は、無限に希釈した時が一番1モル当たりの電気伝導度が高くて、濃度が高くなるに従って濃度の平方根分電気伝導度が直線的に低下していく、ということです。”1モル当たりの”というところに注意です。濃度が高くなるほど、1モル当たり、言い換えると1分子当たりの電気を伝える能力が下がる、という意味です。
これはちょっと不思議な気もしますが、金属中の電気の移動とは違って、液中の電気の移動(電荷の移動)が、陽イオン、陰イオンの物理的な移動に伴う為です。イオンが液中を移動しやすい時は効率よく伝えますが、濃度が高くなってイオンが移動しづらくなると、電気を伝える効率も下がります。また、イオンの大きさによっても動きやすい動きにくいがあります。
電解質単位量当たりの効率は、上記の通りです。一方、電解質の量が多ければ多いほど、総量としての電気伝導度は高くなります。こちはら感覚とも一致するので分かりやすいですね。十分に低濃度な場合、濃度が高い方が電気をよく流します。
これらを考え合わせると、電解質濃度(=肥料濃度)と電気伝導度(換算してTDS値)は下のグラフのように、対数関数的になるのかと想像しました。低濃度側では濃度に比例して電気伝導度が大きくなるけど、濃度が高くなると電気伝導度の上昇は小さくなっていく、というイメージです。

■TDS値と肥料成分濃度との関係
TDS計を用いて表示されるTDS値と実際に添加した肥料成分の重量との相関を確認します。使用する資材は以下の通り。
TDS計:Grove – TDS Sensor/Meter For Water Quality / Seeed Studio
肥料:微粉ハイポネックス 6.5-6-19 / hyponex
水:上水(採水日2024年11月2日) / 水道局
ミネラルウォーター / SUNTORY
局方精製水 / 健栄製薬
温度計:DS18B20 サーミスタ温度計 / DiyStudio
・精製水のTDS値測定

TDS計のプローブとサーミスタ温度計を縛り付けて一体にしています。TDS計の先端がビーカー底部に触れないよう、TDS計が少し浮かせてあります。これでTDS値と測定地点直近の温度が同時に測定できます。精製水のTDS値測定結果は以下の通り。
| 測定 | TDS値(ppm) | 温度(℃) |
| 1回目 | 2.61 | 23.19 |
| 2回目 | 3.13 | 23.25 |
| 平均 | 2.87 | – |
局方精製水の伝導率規格は2.1μS/cm以下です。今回使用しているTDS計は、電気伝導度との相関係数を0.5としているので、上記の結果を電気伝導度に変換すると、1.4μS/cmです。さすが局方品、というか、このTDS計、それなりにちゃんと数字がでてますね。
・上水のTDS値測定
地元の水道局で公開されている直近の上水水質検査結果では、浄水の蒸発残留物は95mg/Lでした。水1Lを1kgとして95ppmですね。精製水同様にTDS値を計測した結果は以下の通り。
| 測定 | TDS値(ppm) | 温度(℃) |
| 1回目 | 135.58 | 22.50 |
| 2回目 | 136.91 | 22.37 |
| 平均 | 136.25 | – |
水質検査における蒸発残留物とは少し合わないですが、直近の測定結果とはいえ数か月前の検査結果ということも考えると、まあまあ良い一致を見せていると思います。
いや、まあ、ここまで気にするなら、標準液を用意すべきですね。1点検量なら大した値段にならないので、TDS値の温度依存性を検討する前に購入しておこうかな。
・市販ミネラルウォーターのTDS値測定

これは完全についでですね。微粉ハイポネックスを水に溶解させるのに、適当な容器が無かったので2Lミネラルウォーターのペットボトルを使いました。使ったのは奥大山の天然水(SUNTORY)。購入したばかりなので、温度が低めです。
| 測定 | TDS値(ppm) | 温度(℃) |
| 1回目 | 54.93 | 9.50 |
| 2回目 | 52.99 | 8.81 |
| 平均 | 53.96 | – |
成分表示には硬度約20mg/Lとあります。TDS値は硬度そのものにはならないので、やっぱりいいところの数字が出ていそうです。
・微粉ハイポネックス水溶液のTDS値測定

測定は2Lペットボトルに上水1000gを量り取り、微粉ハイポネックスを0.1gづつ投入、0.5分間振とう攪拌し、10秒静置後にTDS計(サーミスタ温度計付き)を投入して2回測定しました。上水に溶け込んでいる溶解分はTDS計の実測値を採用し、136.2ppmとしています。
| 添加 回数 | 添加量 (g) | 添加量 累計 (g) | 重量計 (g) | 肥料 重量濃度 (ppm) | 溶解物 重量濃度 (ppm) | TDS 実測1 (ppm/℃) | TDS 実測2 (ppm/℃) | TDS 平均値 (ppm) |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 0 | 初期値 | 0 | 1000.6 | 0 | 136.2 | 135.58 (22.50℃) | 136.91 (22.37℃) | 136.2 |
| 1 | 0.1 | 0.1 | 1000.7 | 99.9 | 236.2 | 298.95 (22.31℃) | 299.38 (22.50℃) | 299.2 |
| 2 | 0.1 | 0.2 | 1000.8 | 199.8 | 336.1 | 490.34 (22.62℃) | 497.29 (22.75℃) | 493.8 |
| 3 | 0.1 | 0.3 | 1000.9 | 299.7 | 436.0 | 575.65 (22.81℃) | 579.26 (22.94℃) | 577.5 |
| 4 | 0.1 | 0.4 | 1001.0 | 399.6 | 535.8 | 653.58 (22.94℃) | 660.29 (23.12℃) | 656.9 |
| 5 | 0.1 | 0.5 | 1001.1 | 499.5 | 635.7 | 879.88 (23.00℃) | 880.75 (23.25℃) | 880.3 |
| 6 | 0.1 | 0.6 | 1001.2 | 599.3 | 735.5 | 1082.94 (23.19℃) | 1084.00 (23.44℃) | 1083.5 |
| 7 | 0.1 | 0.7 | 1001.3 | 699.1 | 835.3 | 1462.42 (23.19℃) | 1461.02 (23.50℃) | 1461.7 |
| 8 | 0.1 | 0.8 | 1001.4 | 798.9 | 935.1 | 1959.93 (23.50℃) | 1943.75 (23.62℃) | 1951.8 |
| 9 | 0.1 | 0.9 | 1001.5 | 898.7 | 1034.9 | 2373.26 (23.75℃) | 2369.03 (23.94℃) | 2371.1 |
| 10 | 0.1 | 1.0 | 1001.6 | 998.4 | 1134.6 | 2812.43 (23.81℃) | 2814.87 (24.00℃) | 2813.7 |
| 11 | 0.1 | 1.1 | 1001.7 | 1098.1 | 1234.4 | 3282.14 (24.06℃) | 3276.63 (24.06℃) | 3279.4 |
| 12 | 0.1 | 1.2 | 1001.8 | 1197.8 | 1334.1 | 3491.32 (24.12℃) | 3439.49 (24.19℃) | 3465.4 |
| 13 | 0.1 | 1.3 | 1001.9 | 1297.5 | 1433.8 | 3676.57 (24.25℃) | 3671.56 (24.31℃) | 3674.1 |
| 14 | 0.1 | 1.4 | 1002.0 | 1397.2 | 1533.5 | 3928.44 (24.25℃) | 3925.26 (24.44℃) | 3926.9 |
| 15 | 0.1 | 1.5 | 1002.1 | 1496.9 | 1633.1 | 4044.12 (24.50℃) | 4037.62 (24.44℃) | 4040.9 |
| 16 | 0.1 | 1.6 | 1002.2 | 1596.5 | 1732.7 | 4182.40 (24.44℃) | 4152.47 (24.56℃) | 4167.4 |
| 17 | 0.1 | 1.7 | 1002.3 | 1696.1 | 1832.3 | 4293.60 (24.62℃) | 4252.91 (24.62℃) | 4273.3 |
| 18 | 0.1 | 1.8 | 1002.4 | 1795.7 | 1931.9 | 4403.60 (24.62℃) | 4372.45 (24.69℃) | 4388.0 |
| 19 | 0.1 | 1.9 | 1002.5 | 1895.3 | 2031.5 | 4462.91 (24.81℃) | 4466.42 (24.87℃) | 4464.7 |
| 20 | 0.1 | 2.0 | 1002.6 | 1994.8 | 2131.1 | 4466.42 (24.69℃) | 4473.44 (24.81℃) | 4469.9 |
| 21 | 0.1 | 2.1 | 1002.7 | 2094.3 | 2230.6 | 4473.44 (24.75℃) | 4469.93 (24.94℃) | 4471.7 |
左から6つ目のカラムが溶解物の重量濃度(ppm)です。これが上水に元々溶けている固形分と添加した微粉ハイポネックスの量を重量濃度で表したものです。この溶解物重量濃度とTDS実測値(平均)の相関を取ってみると、以下のようになりました。

これはなかなか興味深いですね。想像していたものとは全然違いました。興味深い点が3点あります。
1.表示されるTDS値は、溶解物の重量濃度が上がるにつれて、指数関数的に上昇する
最初想像していたのは、低濃度においては直線的に上昇し、濃度が高くなってくるとモル伝導率が低下する為、微粉ハイポネックス投入量に見合わずTDS値が上がらなくなる、対数関数的な挙動をする、でした。投入1回目から12回目までの間は、入れれば入れるだけグングンTDS値が上がっていく状態ですね。この部分だけを切り取ってエクセルで近似式を出してみると、指数関数近似でよい一致を見せます。

2.サチュレーションを迎える濃度が低い
投入19回目から21回目のTDS値を見ると、4460-4470で一定の値となっています。これは検出器の濃度上限に達してしまった為、試料をどれだけ入れても指示値が変わらない状態で、砕けた表現では振り切った状態です。
電気的な検出器なのでいつかこうなるものですが、案外低濃度でそれが発生した、というのが意外でした。測定可能な肥料の濃度範囲は、0~0.2%です。それも、投入13回目、0.14%あたりからTDS値が寝てくるので、サチュレーションしかかっている状態です。メーカーの製品サイトには、このTDS計の測定範囲は0-1000ppmと書いてあるので、直線が担保できるのがその範囲なのかと思っていました。
まあ、無理やり1次式で計算しようとすると1000ppmが限界ですが、指数関数近似とすれば、もう少し行けそうです。上の指数関数近似での相関式では、溶解成分の重量濃度(ppm)で1100ppmくらい、TDS計の指示値では2800ppmくらいまでは、指示値から実際の重量濃度を計算できそうです。
3.ピークが二つあるように見える

高濃度側の3点は振り切ってしまっているので関係ないとして、それ以下のプロットは、指数関数的に見える部分もありますが、二次曲線が2個あるとした方が近似曲線への乗りっぷりがいいです。山が二個ある、ということは、1個目の山を越えたところで別の化学種へ変化して、その化学種の電気伝導度が大きい、という可能性もあります。肥料が濃い時と、薄い時では化学構造が変わる、としたら、肥料効果に濃度極大値があるということも理解できますね。濃すぎると植物が吸収できない、という説明は見たことがありますが、理屈はよくわかりませんでした。なかなか興味深いですが、どうなんでしょう。
■結論
手持ちのTDS計( TDS Sensor/Meter For Water Quality / Seeed Studio)とキュウリ水耕栽培で使用している肥料(微粉ハイポネックス)を用いて、TDS値と肥料濃度との関係を確認しました。
肥料の重量濃度で0-1100ppmの間は、TDS計の指示値と指数関数的な相関関係があり、TDS値を重量濃度へ換算できることが分かりました。
一方、重量濃度で2000ppmを超えると、検出器は飽和となり、TDS値は変化しなくなります。
本TDS計の測定範囲は、重量濃度で0-1100ppm、TDS計指示値で0-2800ppmとします。この濃度範囲における相関式は、指数関数近似式からTDS計指示値を変数となるように変換して以下の通り。
$$ C \ = \ \dfrac{\ln \dfrac{TDS}{190.75}}{0.0024}$$
ただし、Cは肥料成分の重量濃度(ppm)、Cの濃度範囲は0-1100ppm、TDSはTDS計の指示値。TDSの指示値範囲は0-2800ppm。対象の肥料は微粉ハイポネックス。
微粉ハイポネックスは、緩効成分として難溶性の肥料成分も入れてあります。その為、水に完全には溶解せず、薄いスラリーとなります。ポンプで添加を考えると液肥がいいですが、使用する液肥濃度とTDS値の関係は、別途検証しないといけないですね。
長くなったので、とりあえずここまで。次はTDS値の温度依存性かな。









コメントを残す